11月15日(土)30周年記念講演会

,

テーマ 精神障害者の回復と家族の役割

参加者37名(うち会員22名)

 サンクラブ多摩誕生30周年を記念して開催した公開公演会。講師は、練馬区にある「医療法人財団厚生協会大泉病院」の副院長で、新宿の家族会「新宿フレンズ」にも関わっていらっしゃる山澤涼子先生です。精神科リハビリテーションに関わる部門で仕事をされる傍らで、登山や野球観戦が趣味という親しみやすい自己紹介で口火を切られました。

(1)ご家族にお願いしたいこと 病気について知ること

 家族は、病気について知ることが大事です。具体的には、症状(陰性症状や妄想発言への対処法)、経過(消耗期や再発の注意サイン)、治療法(薬の作用や、副作用、症状への対処法)について理解することです。

<なぜ発症するのか?>

 どんな病気にも共通することですが、精神疾患の場合は、準備因子(素因・生物学的脆弱性)に結実因子(生活習慣)がプラスされると、足し算で発症することになります。ストレスがかかると胃が痛くなる人を例にすれば、ストレスをためやすい性格と胃が弱いという準備因子があり、そこに結実因子であるその人の限界を超えるストレスが加わると、胃酸過多になり胃潰瘍になるという構図です。精神疾患の場合については、先生作成のパワーポイントの資料にお話の内容を加味すると、下図のようになります。

つまり、統合失調症とは、その人にとって過剰なストレスがかかることによって、脳内の化学物質のバランスが乱れた状態なのです。脳は大脳だけで数百億ある神経細胞の塊で、電気信号と科学的な信号によって情報を伝達しています。脳細胞同士の伝達の役割を果たすシナプスで、神経伝達物質のやり取りに障害がおきるのが精神疾患なのです。

<治療はどうするか>

 ストレスが各々の限界を超えて、脳内でドーパミンが過剰分泌されたことによって起こる症状に対する治療は、『①ドーパミンの働きを正常化する薬物療法』と、『②十分な休息とコーピング(ストレスを軽減または排除するために意識的に対処する思考や行動)によるストレスマネジメント』、2つになります。統合失調症の場合の薬は、抗精神病薬が、過剰に排出されるドーパミンをブロックします

<回復とは>

 回復に必要なことは、再発予防とリハビリテーションです。再発を防ぐには、適切な薬物療法を継続して脆弱なところを守り、ストレスマネジメントで、自分のストレスが溜まっていることに気づいてストレスを解消する必要があります。

<薬を続けるには?>

服薬を継続するには、医師と患者さんと家族の3者が協力して、飲み忘れが無く、苦痛が一番少ない処方を作っていき、本人がそれをちゃんと守って飲み続けることが大事です。飲む回数、飲み心地、不快な副作用、剤形(錠剤、水なしでとける口腔内崩壊錠、散剤、液剤、注射、貼薬等)などについて3社で検討し、処方を作りあげます。副作用のつらさや、生活スタイルに合った飲み方は、本人しか分からないこともあり、飲み忘れやすい時間等は家族のほうが把握していることもあるので、三者で処方を作っていく必要があります。

 主治医が知らないところで、薬の量を変えたりすることは決していい結果にはならないので、服薬に関わる事実を正直に主治医に伝えてほしいと思います。

飲み忘れ等で服薬管理が大変な場合、持効性注射剤(LAI)の存在が注目されます。2週間から4週間、若しくは3か月に1度の注射で、飲み忘れがなくなることから再発予防効果が高い、服薬の煩わしさから解放される、薬をめぐる家族間のイザコザが減る等のメリットがあります。一方のデメリットは、値段が高い(自立支援利用が必要)、副作用や痛み(昔よりかなり改善された)の問題があります。メリットの大きさを考えると、今後社会に復帰したい方にお勧めで、選択肢として知っておくいいと思います。

<服薬継続と再発率>

 服薬継続について、薬がなしと薬ありで1年後の再発率を比較すると、薬なしは7-8割、薬ありは3-4割。また、再発した場合でも、薬を服用し再発した場合ほうが、再発前の状態に戻りのやすいということがわかっています。

<ストレスマネジメント>

 ストレスサインには、本人が気づくサインと、周囲が気づくサインがあります。本人が気づきやすいのは、身体現れるサイン(不眠、肩こり、頭痛、胃部不快)、と、気分に現れるサイン(落ち込み、不安感、悲哀感)です。行動に現れるサインは周囲が気づきやすく、食欲の変化、口調の変化、落ち着かなさで、煙草の本数が増える例もあるそうです。

悪いことだけでなく良いことでも身の回りに何か変化が起こるとそれがストレスになります。誰でも調子が悪くなると自分の事が客観的に見られなくなります。ストレスサインに、本人も家族も早めに気づくことで、より確かな状況の評価ができます。変化がたくさん重なるとストレスが増えるだけでなく、どの変化が不調の原因なのかわかりにくくなります。先生はその事を「変化はひとつ」という言葉で表現し、治療でも患者さんとの会話でも意識し実践されているそうです。

<危機介入プランとストレスマネジメント>

再発時は、以前と同じような経過をたどることが多く、前兆期に見られた症状が再び出現するので、早めにストレスサインや早期警告サインに気づくことが大切です。気がついた最初のサインを見逃さないこと! 

サインに気がついたらどうするか。退院直後など調子のいいときに、あらかじめプランを決めておくことが重要です。当事者は、薬を増やされるのではないか、入院になるのではないかと、事実を伏せがちですが、我慢しないで、言いたくないこともちゃんと主治医に伝える必要があります。

先生が紹介された1年後の再発率のデータでは、薬なしの場合で7-8割が再発。薬ありの場合で3-4割、薬と当事者中心のストレスマネジメントを組み合わせた場合でも4割をやや下回る再発率。しかし、薬と支援者のストレスマネジメントを組み合わせた場合は、2割を下回る再発率だそうです。統合失調症の家族を抱える身として、自身のストレスマネジメントの大切さを再認識しました。

(2)ご家族にお願いしたいこと ご家族自身のストレスマネジメント!!

 患者さんの再発予防に大事なのが、家族自身のストレスマネジメントです。退院後、高EE*(感情表出が高い)家族と同居すると再発率が高くなることが知られています。高EE*とは、相手に対して批判的なコメントや敵意を示す、感情的に巻き込まれやすい等の傾向があることをさします。その原因として、病気や社会資源に対する知識不足や、不慣れな対処方法、家族の負担感のバロメーター等があげられます。家族との対面時間が少ないほうが再発率は低いというデータも得られているそうです。      

*(ExpressedEmotion)

 関連して先生が言及された様々なお話の中で印象的だったのは、「家族が適度に距離を取るのが大事」「コロナ禍で家族が絶えず一緒にいることによって、今までになかった問題が生じたケースが散見された」「自分のための時間を大切に!」「高EEになっている時は、疲れているサインとして受け止め、自分自身を責めずにいたわってほしい」「相談先をたくさん持つことが大事。誰かが無理して解決する問題ではないので、前のめりにならず、一歩引いて温かく見守る態度で接する」等々の言葉でした。

(3)そのほかのご家族にお願いしたいこと 

 日中の居場所、ショートステイ、相談機関などの社会資源について知ることが大事です。主治医だけでなく、知らないことを聞ける相手を作ることにつながります。退院後に地域に出てうまく生活できる患者さんは、色々な人にうまく相談できる人です。日中過ごせる場所、就労を目指すところ、生活の訓練をする場所、訪問サービス等の目的に応じた社会資源について知っておきましょう。

 また、リハビリテーションも、再発率を低くする大きな要因です。日常生活の中にもリハビリになることがたくさんあること(例えば調理などの家事)。早い時期からの継続的な取り組みが大事で、リハビリテーションによって病気以外の健康な部分を伸ばすことで、病気部分が相対的に小さくなっていくことを目指します。

 お話の終了後、寄せられた質問・相談(投薬に関する疑問点、妄想への対処方法、就労とストレスの関係、高揚した子どもへの受け答え等)に回答していただき、記念講演会は終了しました。

(M.F)


PAGE TOP